"RECORD BOOK"
何となく読みたくなって本棚から引っ張り出してきたこの本「RECORD BOOK」。
当時のロック関連のアルバム百余枚を筆者の主観に基づき紹介している本である。
音楽評論家、編集者、株式会社ロッキング・オンの代表取締役社長である渋谷陽一氏の23歳のころの著作である。
1974年9月25日が初版であるから、当然、それ以前のアルバムを集めている。各アルバムは、「アメリカ・ブルース系」「アメリカ・フォーク系」「アメリカ・ポップス系」「イギリス・ブルース系」「イギリス・フォーク系」「イギリス・ポップス系」「イギリス・プログレッシブ系」「日本のロック」と、ジャンル分けされて紹介されている。
イギリス、アメリカと国別でブルース系、フォーク系、ポップス系を分けているところに、イギリス・プログレッシブ系がぽつねんと存在しているのが面白い。
ちなみに、各ジャンルのトップとラストに紹介されるアルバムは、アメリカ・ブルース系ではトップがポール・バターフィールド・ブルース・バンド「EAST WEST」、ラストがカクタス「CACTUS」、アメリカ・フォーク系ではトップがザ・バーズ「 MR. TUMBLIN MAN」、ラストがボブ・ディラン&ザ・バンド「PLANET WAVES」、アメリカ・ポップス系ではトップがラヴィン・スプーンフル「THE LOVIN' SPOONFUL」、ラストがマービン・ゲイ「LET'S GET IT ON」となっている。
また、イギリス・ブルース系ではトップがヤードバーズ「FIVE LIVE YARDBIRDS」、ラストがロリー・ギャラガー「BLUEPRINT」。イギリス・フォーク系ではトップがデイブ・メイスン「ALONE TOGETHER」、ラストがキャット・スティーヴンス「TEASER AND THE FIRECAT」、イギリスの場合は次がプログレッシブ系となっていて、トップがピンク・フロイド「ATOM HEART MOTHER」、ラストがフォーカス「FOCUS AT THE RAINBOW」となり、ポップス系ではトップがビートルズ「MEET THE BEATLES」、ラストがクィーン「QUEEN I」となっている。
さらに、日本のロックでは、トップがジャックス「からっぽの世界」、ラストが村八分「村八分LIVE」となっている。なかなか濃い?
当時の代表的なバンド、アルバムが網羅的に紹介されているのに留まらず、ややマニアックとも思えるセレクトも適宜に配置されており、読み応えがあるし、今読んでもとても面白い。
当時の私は、あまり音楽的環境に恵まれておらず、レコード一つ買いに行くのも大変なことであった。レコードは、子供には高い買い物だったというのもある。そのため、新しい音を取り入れるチャンネルは、ラジオしか無かった(渋谷陽一氏のサウンド・ストリートには大変お世話になりました)。
そんな中で、この本は、音に対する飢えを誤魔化してくれる、数少ない存在であった。
私は、来る日も来る日も、この本のページを捲って、解説を読みジャケットの粗い写真を見て、「どんな音なんだろう」と妄想していたのでありました。
何というかな、この紙媒体とラジオとの組み合わせは、ワクワク感があった。
この本を参考して買ったアルバムもけっこうあるし、この本から知ったミュージシャンも数多い。現在および過去未来にかけて傾倒してるFrank Zappaを知ったのも、この本の「FILLMORE EAST-JUNE 1971」の紹介からである。
Zappaのアルバムの中でもそれほど有名とはいえないこのアルバムを紹介しているところなど、渋谷陽一氏らしいといえばらしいのかも知れない。
そして今。
この本で紹介されている音源の殆どは、YouTubeなどネット上で聴けるのである。また、アルバムつまりCDは、店まで出向かなくてもネットで購入でき、さらには曲単位でも購入できる。
平たくいうと「便利な世の中になったものだ」ということになるが、あのころのワクワク感が失われたかというと、そういうことでもない。
YouTubeやネットでの音源取得は万能ではないし、CDなどの形で所有していたい作品も多い(ネット販売は便利だけど)。
ただ、あのころ、聴きたくても聴けなかった曲が、いまでは簡単に聴くことができるのだ、というのは、実に感慨深いことではある。